「エキスパートモード」とは

2023年11月から、Singularity (シンギュラリティ)アプリの「本機」画面に「エキスパートモード」が追加されています。本稿ではこの「エキスパートモード」についてご説明します。

1. 「エキスパートモード」とは?
Singularityアプリの「エキスパートモード」とは、「ダークフレームを取得する」機能です。エキスパートモードの画面で、ダークフレームのファイル名や撮影条件を設定することができます。

2. では、「ダークフレーム」とは何でしょうか?
天体をスマート天体望遠鏡やデジタルカメラなどのデジタル機器を使って撮影する場合、その機器が固有にもつ撮像素子や電子回路に起因するノイズ、イメージセンサーの各ピクセルごとの感度の差などにより、画像上に好ましくないノイズやムラが写り込むことがあります。これらノイズは、撮影条件(撮像素子の温度、露光時間、ゲインなどによって特有のものになる傾向があります。
天体撮影時に、同条件でこのノイズ、ムラだけを撮影した画像のデータを撮影しておき、天体写真の画像処理時にこのノイズ、ムラを取り除くことでノイズのない天体画像を得ることができるはずです。天体がなく、ノイズやムラだけを撮影するには、レンズにキャップをするなどしてイメージセンサーに全く光が入らないようにして撮影することで得られます。これを「ダークフレーム」と呼びます。
ダークフレームによるノイズ除去をまとめると以下のようになります。

[天体写真]: 「天体」+「ノイズ」+「ピクセルごとのムラetc.」
[ダークフレーム]: 「ノイズ」+「ピクセルごとのムラetc.」
⇒[天体写真] ー [ダークフレーム] = 天体

Singularityアプリの「エキスパートモード」は、露光時間、ゲイン、画像の枚数など撮影条件を設定してダークフレームのRAW画像を取得する機能です。

画像処理時に、撮影した天体画像からダークフレーム画像を減算する処理を行います。ダークフレーム減算処理に対応したソフトウェアが必要になります。

3. エキスパートモードの設定とダークフレームの取得方法
Singilarityアプリの「エキスパートモード」にアクセスするには、まずスマートフォンまたはタブレットをVesperaにWi-Fi接続してください。

Singularityアプリの「スペースセンター」タブ中央にある「本機」セクション(Vesperaの外観画像が表示されています)の「>」部分をタップして「本機」の設定画面に入ってください。

一番下にある「エキスパートモード」部分の「>」をタップすると「エキスパートモード」の設定画面に入ります。

「エキスパートモード」設定画面で、ダークフレームファイルの撮影条件(露光時間、ゲイン、画像の枚数)を設定して「取得」をタップすると、ダークフレームファイルがFITS形式でVespera本体に保存されます。取得後は、VesperaをPCに接続し、ダークファイルを取り出してください。
ダークファイルは、観測・撮影する天体と同じ撮影条件(露光時間、ゲイン、温度)である必要があります。保存枚数は多い方が望ましいですが、20枚くらい撮影すればよいでしょう。カタログのほとんどの天体は、露光時間10秒、ゲイン20dBに設定されていますが、恒星、月、惑星、一部のディープスカイオブジェクトは条件が異なります。撮影した天体画像の撮影条件を確認するには、撮影後、「プロファイル」タブ(人のアイコン)の「ギャラリー」から当該画像を選択し、「詳細」をタップすれば、スタック画像数、露光時間、ゲインなどが記載されています。

ダークファイル撮影時には、鏡筒に光を通さない黒い布をかぶせるなど、イメージセンサーに全く光が入らないようにしてください。鏡筒アームを閉じている場合も、隙間から光が入らないように布をかぶせるなどしてください。

ダークフレームの取得は、少なくとも30分程度の天体の観測・撮影後に行うことをおすすめします。これにより、センサーの温度が安定し、撮影時とダークフレーム取得時の温度条件をできるだけ同一にすることで高いノイズ減算効果を得ることができます。

4. 画像のスタックと画像処理
ダークフレーム減算処理に対応したソフトウェア(例えば「StellaImage (ステライメージ)」など)を使用して、FITSフォーマットの天体画像とダークフレームファイル(FITS)から画像処理してください。

5, ご注意
Vesperaシリーズにはあらかじめイメージセンサーや電子回路によるノイズ特性がデータベースとして組み込まれており、それを基にノイズ減算処理を含めた画像処理を行うことができます。この画像処理は極めて優秀で、多くの場合、マニュアルでのノイズ減算処理やスタッキング処理よりも高画質であることが多いです。このため、まずはデフォルトのTIFFやFITS画像での画像処理をお試しいただき、さらに高度な画像処理をご自分で行いたい場合や、特別な画像処理の意図をお持ちの場合に、今回ご紹介した「エキスパートモード」によるダークフレーム取得によるノイズ減算処理をお試しいただくことをおすすめします。